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最期に届いた家族の愛
最期に届いた家族の愛
作者: 飛鳥と魚

第1話  

作者: 飛鳥と魚
両親の江口誠一(えぐち せいいち)と江口美蘭(えぐち みらん)は私を救うために、拉致犯の言い分をすべて受け入れて、廃工場で自ら火を放ち、身を投じた。

二人は自分の命を差し出し、私の命をつないだ。

けれど両親が死んだあと、兄の江口真琴(えぐち まこと)は私を激しく憎み、ある夜に交通事故を起こして、二度と目が見えなくなった。

真琴を助けたくて、私――江口夕乃(えぐち ゆうの)は一日十人の男に身を任せた。

次々に現れる中年男の歪んだ趣味を飲み込み、屈辱を噛み殺しながら生き延び、ようやく兄の角膜移植の費用をかき集めた。

ところが家に戻ると、目にしたのは――すでに死んだはずの両親と、植物状態のはずの兄が、私と瓜二つの江口朔菜(えぐち さくな)の誕生日を祝っている光景だった。

ケーキを切っていた父の誠一が、ふと手を止める。

「真琴、朔菜も戻ってきたんだ。そろそろ夕乃に本当のことを話そう。もう、あんな連中に関わらせるのはやめよう」

真琴は朔菜を抱き寄せ、甘やかな顔で笑った。その目は、失明者のものとは思えないほど明るかった。

「彼女に知らせる必要はあるか?もし夕乃がどうしても遊園地へ行くと強情を張らなければ、朔菜が人さらいに連れ去られることはなかった。今こうして見つかったのは、奇跡みたいな幸運だ。

それにあいつ、所かまわず男に抱かれてきた女だぞ。厄介な病気でも持ち帰られたら困る」

私は手の中の通帳を見つめ、息ができないほど胸が痛んだ。

ちょうどそのとき、スマホにメッセージが届く。

【夕乃!今すぐ曝露後予防の治療を始めないと、本当に手遅れになる!】

扉の内側には、あたたかな灯りと弾む笑い声――私が夢に見てきた家だ。

扉の外にいるのは私。そして、手には涙でにじんだ通帳。

私は凍りついたみたいに立ち尽くし、家の中の声をただ聞いた。

「お兄ちゃん、そんなふうにお姉ちゃんのこと言わないで……」

朔菜の声は、軽くて柔らかい。

「お姉ちゃん?どこの誰のことだ」

真琴は嗤った。

「朔菜、お前は本当に優しすぎる。彼女はお前を十数年も外でさまよわせた人だぞ。まだ味方するつもりか?」

母の美蘭も同調する。

「そうよ、朔菜。あの子は放っておきなさい。お兄ちゃんの言うとおり。夕乃じゃなければ、あなたがこんなに長いあいだ私の元を離れて、外で苦労することなんてなかった」

父の誠一が一つため息をつく。

「もう、その話はやめよう。今日は朔菜の誕生日だ。さあ、ろうそくを吹き消して、願いごとを言いなさい」

「私の願いはね、パパとママとお兄ちゃんが、いつまでも元気で幸せでいられるように」

「いい子だ」

中がどれほど幸福であればあるほど、外に立つ私はその分だけ笑いものだ。

両親は亡くなり、兄は寝たきりになった。この家を支えるのは私ひとりだと、ずっと思っていた。

兄の手術費をそろえるために、私はできることは何でもした。

酒に付き合い、笑いに付き合い、夜にも付き合った。

脂ぎった男たちが蛆虫みたいに私の体を這い上がってくる。タバコと酒と汗の臭いが混ざり合った空気の中で、いっそ消えてしまいたいって何度も思った。

そのたびに私は目を閉じて自分に言い聞かせる――これは兄を救うため、たった一人の家族のためだ、と。

けれど今、無数の口づけと撫でで磨耗したこの顔と、部屋の中で笑うあの無垢な顔とが並んで、これ以上ないほど残酷な対比を作っている。

――私が耐えてきた屈辱は、罰にすぎなかったのだ。

中から足音がして、真琴だ。

扉が開く。私の惨めな姿を見ても、彼の顔に嘘がばれた時のような動揺は微塵もない。あるのは、露骨な嫌悪だけだ。

「今日の稼ぎは?今夜は相場が高かったらしいな。たっぷり稼いだんだろ」

私の手の通帳に目を留めた真琴は、それをひったくると、軽蔑を隠さない目で私を上から下まで値踏みした。

「夕乃、すっかり板についてきたな。こんなに早く金をそろえるとは。

ただ、その体、何人に回された?汚らわしい」
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